「独りだけのウィルダーネス」アラスカ・森の生活 リチャード・ブローネク著 サム・キース編
吉川竣二訳 創元ライブラリー

 もう何回読んだだろうか、5回くらいは読んでいるとおもう。カバーはもう擦り切れ始めている。梅雨のつづく中、読書時間はたっぷり、また読み直しました。


アラスカの原野で暮らした手記は何冊か読んだけれど、この本が一番読後感がよい。それはきっと原野で一人きりで他人が係ってこないから人間関係のわずらわしさが文章にない。それがこの本の爽快さだとおもう。それと、途中で挫折することなく厳冬期を含めて一年半を過ごし、この間すべてを手作業で動力を使わずに冬までに丸太小屋を作り通した。この意志と妥協のない作り方が素晴しいとおもう。
私も自分で丸太から材料を作ってもの作りをしているけれど、大鋸(おおが)で板材を作ろうとはおもわない。一枚や二枚なら頑張って作るだろうが、写真で見ると収納キャビネット、何段かの棚板、入り口のドアなど板材がいくつも見える。よほどの根気がなければできない仕事だ。
もっとも、それをしなければ快適な生活ができないということと、自分が頭に描く山小屋と生活用具などを大変だからといってより簡便なものにしようと妥協することを許さない意志とが、この見事な山小屋の内部となったのだと理解できる。
私の場合、家具を丸太から作るといってもチェンソーや電気ノコギリや卓上カンナなどがあってのことなのです。
彼は、丸太を切り、カヌーで湖面を運び、切り、刻み、組み上げる。これを半年でやり遂げなければ冬を迎えられないのだ。楽をしたければ途中で挫折する以外にないのだ。
ひとりでといっても、実際には食糧を補充してもらわなければ、昔のイヌイットのような食生活をしなければならない。小屋作りと食糧調達を両立させることは難しいだろう。そこでブッシュパイロットが湖面に着水して食料や現地調達できない資材(暖炉用のセメントや屋根材のタール紙など)を時折運んでくる。これが著者にとっては大きな精神的な支えになっていたのではないか。近くへ飛んできたときは、特別用事がなくても立ち寄ってくれることもあって大きな喜びであったろう。
私も若ければこんな体験をして見たいと思う。しかし、若かったときは一ヶ所に定住することなど、とても考えられなかった。それよりたくさんの山に登りたい一心だったのだから。
著者も壮年期の気力も体力も経験も豊かだった一番よい年齢に実行できた体験だったのだろう。

アンカレッジの西南西225km、北緯6038分、西経15350分ツインレイクス湖畔の現地はgoogle mapを見ると山小屋の位置をポイントできる。