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「極北 フラム号北極漂流記」 フリッチョフ・ナンセン著 加納一郎訳 中公文庫

ナンセンはノルウェーの人です。極地探検は大航海者といわれるクックを嚆矢として、アドベンチュア号とレゾリューション号とで初めて南極圏を横断しました。また、現在のロス海と呼ばれるところから南極大陸の山々を発見したロス、当時山は火山活動をしていて火炎や煙を噴出していたといいます。一方、北極探険で高く評価されているのはここに紹介するナンセンです。彼はグリーランドの海岸で探検隊の遺品や船の一部が打ち上げられていることから、北極付近を通る海流を見つけ出し、それを利用することを考えました。氷結した海に船を浮かべ海流の動きに任せれば北極点に近づく海流の流路も知ることができると考えたのです。そのために氷圧に耐えられる船を設計し、作られたのがフラム号です。ですからここでいう”漂流”というのは難破しての漂流ではなく自ら進んで氷海上を漂流しようとする探険なのです。
彼の準備は船の設計ばかりでなく、あらゆる起こり得る事態を想定して緻密に準備されました。探検家というより科学者というにふさわしい人ではないかと思います。
リーダーシップもまた見事でした。ノルウェーを出発後初めての冬を氷海上で乗り切った次の春、極点へソリとカヌーで近づくため別働隊をだす計画です。このためにこれからの冬に、ソリ作りや越冬のためのフラム号の準備、ソリを引く犬の対策などやることはたくさんあります。ナンセン自身も緻密な計算によって別働隊が遭遇するあらゆる事態に対応でき、しかも最少で十分な準備をしました。別働隊員の選定にも全員が納得のできるように処理する手際は鮮やかでした。このようなことが探検隊を運営する上でとても大切なことなのでした。相互の信頼なくして絶海の地で数年にわたる厳しい活動は成り立たないのです。毎日が命の瀬戸際で過ごすということが何度もあるのですから。
それから一冬を北極海上のフラム号全員が過ごし、その春別働隊と別れさらにもう一冬を越した三年目。本隊も別働隊も数ヶ月の差で母国ノルウェーに帰還しました。それは国王もうらやむほどの大歓迎を国民から受けたといいます。
この本を読んでいると次々といろいろなことに遭遇します。その文章のテンポも快い。氷海上での越冬は氷圧と海流の早い動きとで氷が互いに激しく圧力を加えられ船を持ち上げたり、氷原に大きな氷の山をたくさん作る。そのときに猛烈な音が響き渡る。白クマにも何度も遭遇します。クマには気の毒ですが犬や人間の貴重な食料になります。毛皮は越冬小屋に敷くマットや寝袋、服などになったことでしょう。現在は白クマは簡単に射殺することはできません。セイウチとの遭遇もカヤックの船底を鋭いキバで破られたら氷の海に投げ出されてしまい命にかかわります。それらが一ページ読んでハラハラ、半ページ進んでドキドキ、あっという間に一日で読んでしまいました。