「日本仏教史」思想史としてのアプローチ 末木文美士著 新潮文庫


宗教というのは身近なもののようで、それにもかかわらず意外と判っていない。宗教について知りたいという思いがいつもありましたが専門書はともかく一般書としてはあまり多くありません。日本は仏教国だといわれます。なるほどお寺は一つの町にいくつもあります。皆同じかというとそうではないらしい。対談などの形で仏教を論じているものをいくつか読んでも、私が知りたいことに答えてくれた本はこれまで一度もありません。ところがこの本は違いました。まず読みやすい。内容も充実している。著者の真摯な態度が内容への信頼感として伝わってくる。安直にみんなが書いている当たり障りのない内容ではない。いいたいこと、伝えたいことが率直に語られている。極端なことは言っていない。本は仏教史です。歴史は都合よく変えることはできません。客観的事実、資料に基づいて書かれるものです。それによって浮かび上がってくるものをどうとらえるかです。
 正直に言って今の地球上の人間社会で起きている大きな対立は、ほとんどが宗教による対立であり紛争です。いわゆる原理主義との対立です。たぶん人類が滅ぶまで解決できないように思われます。しかし歩み寄る可能性が少しでもあれば、そのとき仏教的なスタンスは生きてくるように私は思っています。
宗教は時間の経過といろいろな地域、民族を経て広く伝わっていきます。そのために少しづつ変容していきます。根幹となるものや戒律はあっても受け止め方、受容の仕方は民族によってさまざまです。日本仏教もこれから逃れられません。仏教史は変容の歴史といってもいいと思います。それが判りやすく語られています。