「鏡の上を走りながら」 佐々木幹郎著 思潮社
雑誌「現代詩手帖」 2019 10月 思潮社
佐々木幹郎さんの本に初めて接したのは今から12~3年前、勤務先の図書館の司書の方が「あなたが好きそうな本が入ったから読んでみてください」と紹介されたのが「田舎の日曜日」みすず書房 というエッセイでした。読んでみるとまさに私がしていること、したいことにピッタリ、とても興味深く読みました。

「鏡の上を走りながら」は現代詩集です。若いころ私もリルケ、ベルレーヌなど少しの詩は読んだこともありましたが、若かったときの「血の迷い」みたいなものでした。詩を読むなんてじつに久しぶりのことです。しかも現代詩は私にとって一回読んだだけではチンプンカンプン。若いときに読んだ詩はもっとわかりや易かった気がします。いつの間にかずいぶんとグレードが上がってしまいました。
ときどき気が向くと読んでみます。詩は急いでは読めないのでいまでは数ページの詩が読めればいいという気持ちで読んでいます。それと詩を理解するのにとても力になったのが「現代詩手帖」2019 10月号の佐々木幹郎さんの特集号です。これを読んで詩の背景や、とらえ方、いろいろな方たちが語る佐々木幹郎像を知ることで詩の理解が私なりに進んだ気がします。私にとって難解な現代詩には解説が必要だったようです。
この「鏡の上を走りながら」で朝日新聞社があらたに設けた大岡 信賞の第一回目の受賞者に選ばれたのです。この週末に授与式が行われるはずでしたが、コロナウィルスのため集会自粛となり、当事者のみの授与式になってしまいました。受賞理由は直接的には最新刊の詩集として「鏡の上を走りながら」となっていますが、日ごろからの幅広い分野で質の高い芸術活動をされていることを含めた受賞とのことでした。
詩については初心者にも入らない私があれこれ言うのは変ですが、佐々木さんの詩は現場主義だと思います。この詩集でも東日本大震災で現地に赴いて、見たり、聞いたり、感じたりした詩であり、スコットランドの蒸留所の水源であったり、ヒマラヤの高地であったり、その現場に臨んでの詩であることが私にはとても大切なことに思われます。
この詩集に「イーリー・サイレンス」という私の好きな詩があります。「イーリー・サイレンス」とても響きのいいことばです。この言葉一つでも詩になっているように思えます。先日このページにご本人のサインをしてもらいました。「この言葉はどこから探してきたのですか」とお聞きしましたら(素人ですから怖いものなしです)、ご本人が耳元で同じ言葉を感情を込めて言ってくれたのです「イーリー・サイレンス」と。 まさに詩にあるとおりのシチュエーションだったのです。そのあとご自身が詩全編を朗読してくれるという大サービスでした。